11.5(fri) 日本初 Netfilx配信&劇場公開 同日リリース公開劇場は、シネマート新宿、シネマロサ、アップリンク吉祥寺ほか
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イントロダクション
今もっとも共感を呼ぶベストセラー恋愛小説、待望の映画化!
バブル崩壊後の90年代からコロナ禍の現在まで、時代を彩るカルチャーとともに、一番好きだった人の記憶が胸によみがえる。
1995年、ボクは彼女と出会い、生まれて初めて頑張りたいと思った。“普通”が嫌いな彼女に認められたくて、映像業界の末端でがむしゃらに働いた日々。1999年、ノストラダムスの大予言に反して地球は滅亡せず、唯一の心の支えだった彼女はさよならも言わずに去っていった―。
そして2020年。社会と折り合いをつけながら生きてきた46歳のボクは、いくつかのほろ苦い再会をきっかけに、二度と戻らない“あの頃”を思い出す……。

さまざまな世代の心を掴み、絶賛された燃え殻のデビュー作品『ボクたちはみんな大人になれなかった』。ウェブ連載中からその「エモさ」が話題を呼び、2017年に書籍化されると瞬く間に大ベストセラーとなった半自伝的恋愛小説が、ついに映画化された。

インターネットや携帯電話が普及する以前、雑誌の文通募集欄を通じて知り合い、公衆電話で約束をとりつけた出会いの季節。時を経て、SNSで誰とでも瞬時につながれる現在。バブル崩壊後の1990年代半ばからコロナ禍で人との関わり方が一変した2020年までテレビの美術制作会社で働く「ボク」の恋愛と友情が、移り変わりゆく時代の空気とともにスクリーンに映し出される。
中でも小沢健二、ラフォーレ原宿、WAVE、タワーレコード、シネマライズ、仲屋むげん堂、世紀末へのカウントダウンなどの劇中にちりばめられた90年代カルチャーは、それらをリアルタイムで経験した観客に強烈な懐かしさとせつなさを呼び起こす。一方で、当時を知らない世代も、好きな音楽や映画、ファッションを分かち合う恋人たちの姿に深く共感する。
もっとも、本作の根底に流れるのは、時代が変わっても永遠に変わらない普遍的な感情だ。自分よりも大切な誰かに出会い、世界が変わって見えた時の高揚感。好きな人に存在を承認してもらえた時の喜び。そして、いつまでも消えない喪失の痛み……。観る者誰しもが、自分にとっての「あの時、あの場所、あの人」を思い出し、涙せずにはいられないシーンの数々が抒情的な映像で描かれる。今を生きる人すべてに贈る、2020年代恋愛青春映画の金字塔が誕生した。
稀代の表現者・森山未來の主演最新作。
忘れられないヒロインを伊藤沙莉が演じる。
主人公のボク=佐藤を演じるのは、『モテキ』、『怒り』、『アンダードッグ』などの映画はもちろん、ダンスや演劇の世界でも唯一無二の存在感を放つ森山未來。佐藤の21歳から46歳までを持ち前の表現力で繊細に演じ分け、平凡なごく普通の男が生きた足跡を確実に魅せる。佐藤がずっと忘れられずにいる初めての恋人・かおり役には、映画・ドラマともに出演作が相次ぐ伊藤沙莉。独自の美学を持つ女性を瑞々しく演じ、観客の心にも鮮烈な印象を残す。さらに仕事や私生活で佐藤に影響を与える個性的な男女の役に、萩原聖人、大島優子、東出昌大、SUMIRE、篠原篤、ラサール石井、平岳大、片山萌美、高嶋政伸と多彩な才能が集まった。
メガホンを執ったのは、本作で監督デビューする森義仁。犬童一心監督、阪本順治監督らのもとで助監督として学んだ後、MVやCMで数々の賞を獲得し、「恋のツキ」でドラマ演出を手掛けた新鋭だ。脚本は『そこのみにて光輝く』、『セーラー服と機関銃 −卒業−』『まともじゃないのは君も一緒』などの高田亮が担当。幅広い層を魅了した原作小説のセンチメンタルな文体や構成を、映像ならではの方法で表現し、2時間4分の豊かな映画体験を作り上げた。
ストーリー
あの時も、あの場所も、あの人も、
すべてがいまの自分に繋がっている。
1995年、ボクは彼女と出会い、生まれて初めて頑張りたいと思った。「君は大丈夫だよ。おもしろいもん」。初めて出来た彼女の言葉に支えられがむしゃらに働いた日々。
1999年、ノストラダムスの大予言に反して地球は滅亡せず、唯一の心の支えだった彼女はさよならも言わずに去っていった――。
志した小説家にはなれず、ズルズルとテレビ業界の片隅で働き続けたボクにも、時間だけは等しく過ぎて行った。そして2020年。社会と折り合いをつけながら生きてきた46歳のボクは、いくつかのほろ苦い再会をきっかけに、二度と戻らない“あの頃”を思い出す……。
キャスト
佐藤誠:森山未來
Mirai Moriyama
加藤かおり:伊藤沙莉
Sairi Ito
三好英明:萩原聖人
Masato Hagiwara
石田恵:大島優子
Yuko Oshima
関口賢太:東出昌大
Masahiro Higashide
スー:SUMIRE
SUMIRE
七瀬俊彦:篠原篤
Atsushi Shinohara
佐内慶一郎:平岳大
Takehiro Hira
いわい彩花:片山萌美
Moemi Katayama
恩田隆行:高嶋政伸
Masanobu Takashima
大黒光夫:ラサール石井
Lasalle Ishii
佐藤誠:森山未來
Mirai Moriyama
1984年8月20日生まれ、兵庫県出身。5歳から様々なジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。2013年、文化庁文化交流使として、イスラエルのテルアビブに1年間滞在、インバル・ピント&アヴシャロム・ポラック ダンスカンパニーを拠点にヨーロッパ諸国にて活動。ダンス、演劇、映像など、カテゴライズに縛られない表現者として活躍。主な映画出演作に、『モテキ』(11)、『苦役列車』(12)、『北のカナリアたち』(12)、『人類資金』(13)、『怒り』(16)、『サムライマラソン』(19)、日本・カザフスタン合作映画『オルジャスの白い馬』(20)、『アンダードッグ』(20)。近作として、NHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(19)。監督作品としてショートフィルム「Delivery Health」(19)、「in-side-out」(20)。笠井叡ダンス公演「櫻の樹の下には」(21)、清水寺奉納パフォーマンス「Re:Incarnation」(21/総合演出、出演)。舞台「なむはむだはむ」(17)、「オイディプス」(19)「未練の幽霊と怪物」(21)など。待機作に、劇場アニメーション「犬王」(22年公開予定)がある。ポスト舞踏派。
miraimoriyama.com
Comment
歳を重ねる中で、どこかに何か落としものをしてしまうことは誰しもが経験すること。
何かを落としてしまったことに向き合う、もしくは向き合うことから逃げて、何かしらの折り合いをつけられることを「大人」と呼ぶのだとすれば、この映画の主人公である「ボク」は本当に「大人」にはなれなかったのか。
落としものをしてしまったことによって生まれた痛みを抱え続けるからこそ、人の痛みをわかってあげられる。そのことを「大人」だと呼ぶのだとすれば、「ボク」は「大人」なのかもしれない。
「大人」になるのは悪いことだけではない、と考えていた時間でした。
加藤かおり:伊藤沙莉
Sairi Ito
1994年5月4日生まれ、千葉県出身。2003年、ドラマデビュー。2020年、テレビアニメ「映像研には手を出すな!」やドラマ「これは経費で落ちません!」「ペンション・恋は桃色」などでの活躍を評価され、第57回ギャラクシー賞テレビ部門個人賞、東京ドラマアウォード2020で助演女優賞、今年は映画『劇場』『ステップ』『タイトル、拒絶』『ホテルローヤル』『十二単衣を着た悪魔』などにより第63回ブルーリボン賞助演女優賞、そして第45回エランドール賞新人賞の栄誉に輝いた。近年の出演作にTVドラマ「全裸監督」(19、21)、「いいね!光源氏くん」(20、21)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(21/ナレーション)、舞台「首切り王子と愚かな女」(21)など。6月に初のフォトエッセイ「【さり】ではなく【さいり】です。」を刊行。
Comment
この作品のかおりという女性は正直、今までで一番悩み、葛藤と共に生きた役でした。
佐藤が掴みきれなかった女性がその状態のまま描かれているということで本当にヒントが少ない状態だったからです。
だけど、だからこそ、私なりのかおりを、私なりの答えを出したいと密かに思っていました。
それを監督や未來さんを始め皆で意見やアイデアを出し合って作り上げた時間はとても濃厚なものでした。
この大好きな作品に携われたこと、かおりを生きれたことは人間、役者伊藤沙莉にとってとても貴重で有り難いものだったと思っています。
この作品を沢山の方に観て頂きたいですし、その沢山の方の胸がギュウってなる気がしてとても楽しみです。
石田恵:大島優子
Yuko Oshima
1988年10月17日生まれ、栃木県出身。2014年、『紙の月』で第38回日本アカデミー賞優秀助演女優賞、第39回報知映画賞助演女優賞など多くの映画賞を受賞。主な出演映画に『櫻の園』(08)、『銀色の雨』(09)、『スイートリトルライズ』(10)、『メリダとおそろしの森』(12/声の出演)、『闇金ウシジマくん』(12)、『劇場版 SPEC~結~ 漸ノ篇/爻ノ篇』(13)、『ロマンス』(15)、『真田十勇士』(16)、『疾風ロンド』(16)、『生きちゃった』(20)、『明日の食卓』(21)、『妖怪大戦争 ガーディアンズ』(21)などがある。TVドラマの出演作に、NHK連続テレビ小説「スカーレット」(19)、「東京タラレバ娘」(17、20)、「七人の秘書」(20)、「ネメシス」(21)などがある。
Comment
“あの時のあなた”は、切り取った一枚のポストカードのように記憶に残り、思い出に変わっていく。
“あの時の感情”は、身体に刻みこまれているかのように、鮮明に想い出す。
現在はやがて過去になり、普通に歩んでいく。
三好英明:萩原聖人
Masato Hagiwara
1971年8月21日生まれ、神奈川県出身。TVドラマ「あぶない刑事」(87)でドラマ初出演。『ウォータームーン』(89)で映画デビュー。その後、TVドラマ「夏子の酒」(94)、「若者のすべて」(95)などに出演。映画では、93年、『学校』、『月はどっちに出ている』、『教祖誕生』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。95年、『マークスの山』で日本アカデミー賞優秀助演男優賞とブルーリボン賞助演男優賞、97年、『CURE』で二度目の日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。その後の映画出演作に、『カオス』(00)、『光の雨』(01)、『この世の外へ クラブ進駐軍』(04)、『樹の海』(05)、『BOX 袴田事件 命とは』(10)、『きみの鳥はうたえる』(18)、『Fukushima50』(20)など。『ひらいて』が10月22日に公開。
Comment
大人になりたくてもなれない人、大人になりたくないのになってしまった人、そんな人達が集まって作った作品なんだと思います。
だから、なろうがなるまいがどっちでもいいんです。
そう言うことです。
僕自身はどっちかよく分かりませんが、作中に生きてる人達もきっとそうです。
そう言うことなんです。
関口賢太:東出昌大
Masahiro Higashide
1988年2月1日生まれ、埼玉県出身。2012年、『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビューし、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された『寝ても覚めても』(18)では主演を務めた。最近の出演作に、『コンフィデンスマン JPロマンス編』(19)、『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』(20 *ナレーターとして出演)、『コンフィデンスマンJP プリンセス編』(20)、『スパイの妻』(20)、『おらおらでひとりいぐも』(20)、『BLUE/ブルー』(21)、などがある。主演を務めた佐藤泰志原作映画化5作目となる『草の響き』が10月8日、『峠 最後のサムライ』が22年公開予定。
Comment
もう10年以上会っていない友人との最後の挨拶は「さようなら」じゃなく「またね」だったように思う。
歪で曖昧で、劇的でもないけれど、過ぎ去った掛替えのない日々を愛でる映画になっていると思います。
スー:SUMIRE
SUMIRE
1995年7月4日生まれ、東京都出身。2014 年より雑誌「装苑」の専属モデルとして活動し、ファッションを中心に様々なジャンルで活躍。18年に映画『サラバ静寂』のヒロイン役で女優デビュー。19年にはWOWOWのオリジナルドラマ「悪の波動 殺人分析班スピンオフ」でヒロインを務めた。主な映画出演作に『リバーズ・エッジ』(18)、『TOURISM』(19)、『mellow』(20)、『裏アカ』(21)などがある。本年は、『妖怪大戦争 ガーディアンズ』が公開されたほか、WOWOWの連続ドラマW「いりびと‐異邦人‐」が11月から放送・配信予定。
Comment
本作の台本を読んで、想っている人と実らなかったり仲間といる楽しさ、青春というモノを思い出しました。
そんな昔を懐かしむ自分がいたことで、シーンの中ではスー役としても甘酸っぱい思い出や人と人とのつながり、思いやりをより強く感じられた作品です。
どこかに自分を重ねたり、あるいは懐かしい気持ちになるシーンがあると思うので、観ていただく皆さんにとって心温まる作品でありますように。
七瀬俊彦:篠原篤
Atsushi Shinohara
1983年2月1日生まれ、福岡県出身。2015年に『恋人たち』に初主演し、第39回日本アカデミー賞新人俳優賞、第89回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、第30回高崎映画祭 優秀新進俳優賞を受賞する。その他の主な出演作に、『彼女の人生は間違いじゃない』(17)、『菊とギロチン』(18)、『浅草スマイル』(18)、『恋は雨上がりのように』(18)、『風の電話』(20)、『罪の声』(20)などがある。
Comment
七瀬の抱いた感懐とその眼差しは、僕にも覚えがあるものでした。
どうしようもなくて、照れ臭くて、嬉しくて、苦しくて、不安や孤独がいっぱいに詰まったごった煮みたいなあの想いが、今となってはとても愛おしいです。
佐内慶一郎:平岳大
Takehiro Hira
1974年7月27日生まれ、東京都出身。2002年舞台「鹿鳴館」でデビュー。その後、舞台「ピグマリオン」(13)、「国民の映画」(11、14)、映画『関ヶ原』(17)など多数出演。19年、Netflix/英国BBC共同制作ドラマ「Giri/Haji」で主演を務め、同作品において、20年英国アカデミー賞主演男優賞にノミネートされる。20年より拠点を海外に移し、本格的に海外での活動をスタート。本年の出演待機作に10月22日公開の『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』がある。
いわい彩花:片山萌美
Moemi Katayama
1990年10月1日生まれ、東京都出身。2012年「ミス日本ネイチャー」を受賞後、13年に女優デビュー。映画、TVドラマ、舞台と活躍している。近年の出演映画作品として、『万引き家族』(18)、『ばるぼら』(20)、『銃2020』(20)、TVドラマでは、NHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(19)「警視庁強行犯係・樋口顕」(21)、「IPサイバー捜査班」(21)、Netflixドラマ「全裸監督 シーズン2」(21)などがある。
恩田隆行:高嶋政伸
Masanobu Takashima
1966年10月27日生まれ、東京都出身。NHK連続テレビ小説「純ちゃんの応援歌」(88)でデビュー。90年に放送開始したTVドラマ「HOTEL」は、2002年まで続く人気シリーズとなった。22年放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」への出演が決定している。近年の出演映画として、『臨場-劇場版-』(12)、『暗殺教室』(15)、『エイプリルフールズ』(15)、『ラプラスの魔女』(18)、『響-HIBIKI-』(18)、主演作『アパレルデザイナー』(20)、『犬鳴村』(20)、『仮面病棟』(20)などがある。
大黒光夫:ラサール石井
Lasalle Ishii
1955年10月19日生まれ、大阪府出身。80年、渡辺正行、小宮孝泰と共に「コント赤信号」を結成。花王名人劇場でデビューし、お笑いブームに乗り、一躍人気者に。その後、俳優としても多くの作品に出演し才能を発揮。また、脚本・演出家としても幅広く作品を手掛けるほか、書籍、エッセイの執筆など、 その活動は多岐にわたる。2015年には、原案、作詞、演出を担ったオリジナルミュージカルで、第23回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。
原作
原作:燃え殻
moegara
1973年生まれ、神奈川県出身。小説家、エッセイスト、テレビ美術制作会社企画。WEBで配信されたデビュー作「ボクたちはみんな大人になれなかった」は連載中から大きな話題となり、2017年に新潮社より刊行され、ベストセラーになった。エッセイでも好評を博し、著書に「すべて忘れてしまうから」「夢に迷って、タクシーを呼んだ」「相談の森」がある。本年、第二弾の小説『これはただの夏』を上梓した。
Comment
もちろん小説だから、創作部分が多い。だが、あの時代の匂いだとか、流れていた音楽だとか、空気みたいなものは、本当のことを入れたかった。僕が人生で最初に書いた小説で、きっと最後の小説になると思っていたからだ。
たとえば物語の根幹となる出来事、人物は創作だったりする。逆に、読み飛ばしても構わない場面、構わない登場人物、大体の人にとって記憶に残らない会話に、本当のことをたくさん書いた。僕の人生のほとんどは、読み飛ばしても大丈夫な、忘れてもさして問題のない人と言葉と経験で出来ている。
あるときまではそれが嫌で、ばからしくて、自分の人生に真剣に向き合えなかった。「三十代半ばまでに、年収が一千万を越えなかったら、そんな奴はクズだね」と知り合いのイベント会社の社長が酒の席で、確かに言ったの覚えている。僕がこの小説を書いたのは、四十代に入ってからだ。その社長の言葉を借りれば、クズが決まったあとに僕はこの小説を書いた。
クズが書いた小説は、ありがたいことに人から「ベストセラー」と呼ばれるようになる。それでもまったく浮かれることができなかったのは、その社長の「年収一千万を越えなかったら、そんな奴はクズだね」という言葉のおかげだったかもしれない。ベストセラー作家と呼ばれても、さして儲からないし、先の保証もない。人生は一冊で変わることはなかった。今日も僕はドトールに行って、「大きさはどうしますか?」と店員に言われ、「L、いやMで」と微調整しながら生きている。でも、あの制作会社の社長が、もしまた酒の席で同じような話をしたら、「取るに足らないと、いまこの瞬間思っていることや人が、自分の人生のすべてだったと思う日が来るんです」と僕は全力で言い返すと思う。小説にも書いて、劇中でも使われた、ほとんどの人にとってどちらでもいい言葉を、僕はお守りみたいに両手で抱きかかえるようにして生きている。
劇中、伊藤沙莉さんの声でそれが再生されたとき、タイムスリップしたような感覚に襲われた。僕がその言葉を投げかけられた場所は原宿の喫茶店だった。クーラーがやけに効いていて、店内には僕たちふたり以外誰もいなかった。カルキ臭いお冷に口をつけた彼女が、ポツリと言う。
「君は大丈夫だよ、おもしろいもん」
僕が今日まで何とか騙しだましやってこれたのは、言った当人もきっと忘れてしまったであろうそんな言葉だ。それは人からみれば、あまりにもさりげない、記憶に残らない言葉かもしれない。よそ見をしていても構わない場面、構わない登場人物、記憶に残らない会話。僕の人生のほとんどは、そんな言葉と出会いと経験で出来ている。この映画を観た人が、そんな自分の中で眠っていた記憶を、やり過ごしていた出来事を思い出してくれたら、それ以上に嬉しいことはありません。
スタッフ
監督:森義仁
Yoshihiro Mori
1982年生まれ、三重県出身。日本映画学校(現日本映画大学)を卒業後、映画の助監督として阪本順治、犬童一心、林海象ら監督作品などに参加。2007年にサカナクション「三日月サンセット」の MVを初監督し、ミュージックビデオを中心に監督として活動をはじめる。13年AOI Pro.に入社。その後CMディレクターとして活躍し、17年よりCluB_Aに所属。これまでにトヨタ、日産、ドコモ、ソフトバンク、ユニクロ、マクドナルドなど多くの企業のCMを監督。演出を務めたdocomo「3秒クッキング」ではCannes Lions 2015 フィルムクラフト部門 ゴールドをはじめ国内外、数多くの賞を受賞。17年に手掛けた日清チキンラーメン「INSTANT BUZZ」でもACC TOKYO CREATIVITY AWARDS、Spikes Asiaにて受賞。さらに、欅坂46、Candy Foxx、AKB48、嵐などのミュージックビデオも多数演出する。18年にテレビ東京とNetflixが共同制作したドラマ「恋のツキ」を監督し、本作が満を持しての映画監督デビュー作となる。
脚本:高田亮
Ryo Takada
1971年生まれ、東京都出身。2011年、『婚前特急』で劇場映画脚本家デビュー。『そこのみにて光輝く』(14)でキネマ旬報ベスト・テン脚本賞、ヨコハマ映画祭脚本賞を受賞。主な作品に『さよなら渓谷』(13)、『セーラー服と機関銃 −卒業−』(16)、『オーバー・フェンス』(16)、『武曲 MUKOKU』(17)、『猫は抱くもの』(18)、アニメ『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』(20)、NHKスペシャルドラマ「詐欺の子」(19)、『まともじゃないのは君も一緒』(21)などがある。
音楽:tomisiro
tomisiro
掛川陽介と本澤尚之による音楽ユニット。映画、TVドラマ、ゲームなどのサウンドトラック制作やアーティストへの楽曲提供を行う。手がけた主な作品はゲームソフト「FINAL FANTASY VII REMAKE」(20)、TV ドラマ「恋のツキ」(18)、「デザイナー渋井直人の休日」(19)、TV/劇場版アニメ「マクロスΔ」(16/18)、「龍の歯医者」(17)など。リンダ3世、柴咲コウ、 SMAP、Cana from Sotte Bosseなどへの楽曲提供のほか、ボーカリストのKaoriを加えたバンドLanguageとしても活動している。
コメント
今がどんなにクズでも思い出は美しく持て、いつか今が思い出になるから、というメッセージかな…ちがうかな、どちらにせよ、ちょっと泣かせる映画を観たな。
大槻ケンヂ
ロックミュージシャン
「普通」とはなにか。普通じゃない世の中で、普通を愛することって、とても難しいなと。
でも、願わずにはいられないなと。普通の尺度を決めていたのは、自分なんだな。と。
見終わった後、複雑ななにもかもが、愛おしく感じました。
江口拓也
声優
僕も、大人になりきれていなかったあの頃、、、ブランドを立ち上げたばかりで、記憶すらない徹夜続きの日々。ケイタマルヤマみたいなスカートを自分で描いてくれたそんな女の子達がいてくれたんだって思うだけで、そんな日々が報われた気がする。僕だって、オザケンやドリカムを聴きながら、ちょっと甘酸っぱい恋をしていた。そんな記憶が呼び覚まされる空気をこの映画は纏っている。
丸山敬太
ファッションデザイナー
原作の燃え殻氏とは知り合いだし、森山未來とは腐れ縁だし、自分もあの時代のテレビ業界の底辺にいたし、今でも「犬キャラ」はよく聴くし、手痛い恋愛もたくさんしてきたし、僕が撮るべきなんじゃないかと思ったこともあったけど、撮らなくてよかった。とてもじゃないけど、こんなに美しい映画にはならなかったから。
大根仁
映像ディレクター
カビの匂いと雨の匂いがして、あぁ、僕は今世界を見ているなと思った。
汗と血と性の匂いがして、あぁ、僕は今人間の悲しみを見ているんだと知った。
上出遼平
テレビ東京「ハイパーハードボイルドグルメリポート」ディレクター
素晴らしかった。途中から、グッときっぱなし、胸がつかえてしょうがなかった。人ごとにできない、青春がいくつも現れ消えて、何人もの忘れられない人たちの感触が甦った。会いたい人もいるけど、きっと会えない。
時の断片が積み重なり映画が生まれていくのを見届けていく快感がずっとあった。世代を超え、沢山の人にとって忘れられない青春映画になっていくと思う。
犬童一心
映画監督
大人になって思い出す「あれって、わりと楽しかったな」という時間の他愛なさ、切実さ、愚鈍さが、そのまま紡がれているもんだから、何だか思い出に浸ってしまった。絶対に戻りたくないはずなのに。
岨手由貴子
映画監督/『あのこは貴族』
遡ってゆく時間のすべてが、苦くて、甘くて、痛かった。とるに足らない日々の断片を積み重ねた「普通」の人生の話は、それでも充分描くに足る物語なのだ。
土井裕泰
演出家・映画監督/『花束みたいな恋をした』
どれだけ近づいても、あなたのすべてを知ることはできない。
どうして教えてくれなかったのか。
どうしていなくなってしまったのか。

でも。
そんないくつもの”どうして”を抱えて生きるのも、悪くないのかもと思った。
松本花奈
映画監督/『明け方の若者たち』
「ほんと、普通だな」
主人公のつぶやきが優しく響く。
普通じゃない、に憧れながら、普通でしかないあの頃の自分に、時間差で届いた手紙。ありがとう。
相田冬二
Bleu et Rose/映画批評家
過去にしか見出せない希望がある。
忘れたい。忘れられない。忘れたくない。

焦げ付くような香りのする
生き物みたいに描かれたリアルな東京。
スクリーンに映っていたのは私だった。

出会いと別れを追想する、これは人生の交差点。
東紗友美
映画ソムリエ
大嫌いなあの人に、出会えて良かった。
失敗も後悔も、全ての傷がいまの自分を創ったから。
そう、思えた。

過去から届けられた、送辞みたいに優しい映画だ。
SYO
映画ライター
胸に刺さった「あの頃」の棘を抜くために過去へと遡る本作は、記憶を旅するロードムービー。青春の原風景に辿りついた時、少しだけ大人になれるのかもしれない。
村尾泰郎
映画/音楽ライター
過ぎ去った日々の風景は、後悔の色に染まっていても、一つ一つが愛おしい。“大人になる”は、誰にとっても永遠の難問かもしれない。
金子裕子
映画ライター
取扱注意!昔好きだった音楽を聴いて、そのとき好きだった人をうっかり思い出してしまうような人にはとくに刺さる映画です。
遠藤京子
ライター